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「ダサい」の三重構造。「何者」が面白かった2つの理由(ネタバレあり)

原作「何者」を読んでみた

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映画化で話題の「何者」。原作の小説を読んでみました。

就活における「建前の本音の歪み」や「あるあるネタ」が随所に入れ込みながらも、最後には衝撃の真実もあり、非常に読み応えのある作品です。

概要

・人を分析するのが得意な主人公拓人。

・ノリと愛嬌で就活を乗り切っている光太郎。

・実直で大人な瑞月。

・「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。

・就活をバカにしつつも焦りを隠せない隆良。

22歳の大学生5人は、理香の部屋を「就活対策本部」として定期的に集まるようになる。

「ダサい」の三重構造

「働く」というテーマは「万人がある程度語れる」ため、色々な意見があります。

そしてそれ故に、自分とは違う考え方を否定してしまいがち。

 「あいつらってダサい。これからの未来のことを、客観的に自分のことを、全く見えていない」と。

 

今作では、自分とは異なる思考の人間に対し、誰もが多少は持っている闇の部分が存分に描かれていました。

1つ目の「ダサい」

端月と理香の女子二人は就活真面目系。しっかりと対策を練って準備満点。端月は確実に成果を出す一方で、理香はいわゆる「意識高い系」で手段と結果が少しちぐはぐ。

 

そんな二人に代表される「決められたレールを歩こうとする就活生」を、クリエイター気質の隆良は「ダサい」と考えています。

2つ目の「ダサい」

そんな隆良を、主人公拓人(時々、光太郎も)は「ダサい」と思っています。

拓人たちの考えはこんな感じ。

「就活をしない」という選択をした人間は、なぜ「自分だけが英断をした」と考えてしまうのか?

「就活をした人間は全員思考停止している」となぜ一括りにできるのか?

 大きな覚悟と信念を持って「就活」を選択した人間だってたくさんいる。

 

「隆良は自分のことを客観視できていない」と評価しているのです。

3つ目の「ダサい」

最後の最後。主人公拓人の「常に観察者ぶって、周りを見下している姿」を、理香が「ダサい」と指摘。(作中で「ダサい」と言ってはなかったですが)

 

そして、この指摘の中で「衝撃の真実」が露見します。

なんと登場する5人のキャラクターは、全員大学5年生だったのです。

 

光太郎はバンドが忙しいために留年経験があり、理香と端月は留学に行っていて、隆良は休学していたために1年遅れています。

では主人公拓人は・・・?

 

実は彼は「去年就活をしたのに1社も内定をもらえなかった」ので5年生をやっていた。 

「一番冷静で、分析力があり、周りをよく見えている」と思われてい拓人が、最も成果を出せていなかったという事実。

 

その理由を、理香は「周りをバカにしているから」とし、拓人のことを「自分の弱さと自覚しながらも、理想の自分になるための努力ができない人間」と評しました。

「最大の叙述トリック」と「主人公たちの課題」が一致

そしてもう一つ。

この作品が秀逸だったなと思った点が「叙述トリック」と「主人公たちの課題」が一致していたという部分。

 

叙述トリックとは「読者に仕掛けたトリック」のことです。

例えば「実は主人公が女だった」とか「犬目線の話だった」とか「10年前の話だった」などなど。キャラクターたちは当たり前のように共有している事実を(それ故にわざわざ会話に出すまでもないことを)、読者に誤認させるトリックです。

 

今作は「全員5年生」「拓人が就活2回目だった」が叙述トリックにあたります。

そして「主人公たちの課題」は言うまでもなく「内定をもらうこと」です。

 

拓人が直面している「内定が出ない」という課題が、「就活を2回するほど"何か"が拓人にはあった(周りをバカにしてカッコ悪いことをやろうとしない点)」と結びついているのが凄い。

 

実はそういう作品って中々ないんです。

有名な作品でも「〜のドンデン返しが有名だったけど、そもそも主人公たちの目的って何だっけ?」みたいな話が多くあります。

叙述トリックの名作と比較してみる(ネタバレあり)

叙述トリックの名作「葉桜の季節に君を思うこと」「向日葵の咲かない夏」「アヒルと鴨のコインロッカー」と比較してみましょう。

 

※以下、それぞれの作品の最大の叙述トリックを明かしてしまっているので、まだ読んだことがない人は見ないほうが良いかもしれません。

「葉桜の季節に君を思うこと」

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

 

 

叙述トリック:主人公たちが全員老人

主人公たち課題:悪徳業社「蓬莱俱楽部」の調査

「向日葵の咲かない夏」 

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 

叙述トリック:妹を始めとする回りの重要人物が人間じゃなく、人間からトカゲや花、猫に生まれ変わった者。

主人公たちの課題:K君殺しの犯人探し

「アヒルと鴨のコインロッカー」 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

 

 叙述トリック:「現在」の河村の正体はドルジ

主人公たちの課題:ペット殺しの犯人

非常に読み応えのある名作

ということで、非常に面白い作品でした。

今後「銀のアンカー」と並んで、就活生必見の作品になるのかもしれません。 

 

就活生の方は是非、一度読んでみましょう。

何者 (新潮文庫)

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銀のアンカー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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