小説「何者」に殴られた夜(ネタバレあり)

小説「何者」を読んで

f:id:mizutanikengo:20161029063018p:plain

 

コラムです。書評記事はこちら。

www.mizutanikengo.com

 

コラム『「何者」に殴られた夜』

思えば「何者」はいつも僕と同じ方向を見ていた。

決して並んでいるわけではない。僕は、いつも「何者」の後ろに立ち、彼が見ている景色を、そして彼の行動を見ていた。

 

だから僕は、彼の顔を見たことがない。

そのたくましい背中だけが脳裏に残っているのだった。

 

これは、朝井リョウの小説「何者」についての話である。

 

この物語は、主人公「二宮拓人」の目線で展開していく。

彼は、狂言回しだ。周りの描写を僕ら読者に向けて、冷静に、正確に、伝えてくれる。

 

仲間内から分析力があると言われるのも納得である。彼以外、この役回りはできない。

真面目過ぎる「端月さん」にも、自分語りに必死な「隆良」にもキツイ。

4月でノースリーブを着てしまう「ユウナさん」は論外だ。

 

僕らは「二宮拓人」を通して、物語を知っていく。「何者」という小説の背中をなぞり、彼がこれからどんな景色を目の当たりにするのかを知っていく。

 

いや知るだけではない。

 

登場人物の行動がただ時系列的に並ぶだけの物語を誰が読もうか?

常に、各々のキャラクターには評価が付きまとう。

 


真面目過ぎる理香を「意識高い系」と評する。

周りと同じく就活を選んだ人間を小馬鹿にする隆良を「自分だけが物事を考えている人間だと思っている」と評する。

拓人に近い考えを持ちながら、ピエロを演じることのできる光太郎を「世渡り上手」と評する。

 

 

評価しているのは誰だ?

 

主人公「拓人」だ。

 

 

だが、

拓人だけじゃない。

 

 

僕らもだ。

 

「あぁ、いるな、こういつ人。」と傍観者たる僕らは、評価を下している。

 

「理香」は準備だけ気合い入れているけど上手くいかなさそうだな。

「隆良」は、なんだかんだ口だけの奴だな。

「光太郎」って社会に出ても成果だしそうだな。

「端月さん」は、大人だなぁ。可愛いなぁ。

「ユウナさん」は全然、出てこないなぁ。

「サワさん」、実写化だと山田孝之がやるのか。 

 

 

しかし、最後の最後。

拓人が理香と対面するシーン。内定が出ず、二人とも就活で疲れている時期。

 

そこで、理香が拓人に向けて衝撃的な事実を告げる。

それは、僕らが後ろか見ていた「何者」が、こちらを振り向いた瞬間でもあった。

 

 

 

「そんなんだから・・・」

 

 

 

 

「就活2年目になっても内定0なんだよ。」

 

 

理香はさらに言葉を続ける。

 

 

「拓人くんは、みんな、自分よりは不幸であって欲しいって思ってる。その上で自分は観察者でありたいって思ってる」

 

「私はね、誰かのことを観察して、ひそかに笑って、それで自分が別の次元に立っているなんて錯覚したりしない。絶対しない。」

 

 

同時に、こちらを振り向いていた「何者」は、僕らにつかつかと歩み寄り、殴りかかった。

 

登場人物たちを、拓人の一緒になって俯瞰して見つめていた読者。

傍観者である僕らに、「何者」は鋭い一撃を与えてきたのだ。

 

 

この日、僕は、「何者」に殴られたのである。

 

 

(完)

 

 

 

 

P.S ちなみにこのコラムを書いている時、擬人化された「何者」のイメージは、

 

 

 

f:id:mizutanikengo:20161029162859j:plain

 

なんか知らんけどこいつでした。